第五回アントーニオ本多

THE 夏の魔物1stシングルの1曲「over the hill」の作詞を手掛けたアントーニオ本多。ライヴ定番曲「SUNSET HEART ATTACK」作詞でも知られる彼が今回書いたのは「別れ」をテーマにした楽曲。バンドの精神的支柱として信頼を集める彼はどんな思いで言葉を綴ったのだろうか。そして、自分自身のバンドでの存在意義の変化についても語ってもらった。

取材・文:岡本貴之

―「over the hill」の作詞はどんなタイミングで決まったんですか。

アントン:去年の年末のライヴで特典会の最中に成田君が「アントンさん、大事なことをサラッと言っていいですか?歌詞書いてほしいんすよ」って言ってきて。「いいよ」って二つ返事で答えました。テーマは「別れ」ということだけ指定されました。

―デモが届く前に、歌詞の断片を書き溜めておくようなことはしていたんですか。

アントン:一切してないですね。どんな曲かわからないので。デモが届いてからは5日間いっぱいかかったんです。以前歌詞を書いた「SUNSET HEART ATTACK」は2時間半くらいで書いたんですけど(笑)。今回は本当に時間がかかりました。「SUNSET HEART ATTACK」の10倍以上。

―それだけ時間がかかった理由は?

アントン:私本来の発想はこっち(「SUNSET HEART ATTACK」)に近いんですよ。“テレビを窓から投げ捨てろ!”みたいな曲を書く方が得意というか。今回はミドルテンポのロッカ・バラードだったので「SUNSET HEART ATTACK」で経験したときとは全く違う感じだったんですよね。

―完成したものをメンバーにはどうやって発表したんですか?

アントン:これがね、すごいんですよ。デモは歌っている人のメロディとオケだけのデータももらっているんですけど、みんなに伝えるためにオケだけのデータに自分が歌って録音するという(笑)。

―アントンさん自らが歌ったんですか(笑)。

アントン:そうなんですよ。しかもこれ、曲がむずかしいんです。みんながちゃんと歌いやすく理解できるように、全部自分で歌いました。しかもPCで音源を流してボイスメモで録ったので、編集ができないから一発勝負で。ボイスメモのデータをLINEでメンバーに送って聴いてもらいました。

―ということは、アントンさんソロ・ボーカル・バージョンが…

アントン:存在します!正直、私のデモ・バージョンは自信ありますね。完成したものとはまた別の世界観で。男がボソボソ歌っているという(笑)。でも、完成するまでには不安なところもありました。何回も書き直して自分で歌ってみてというのを繰り返していると、これでいいのかどうかっていうのがわからなくなっちゃって。結果、いいところに着地ができたなとは思っていますけど。

―“このひとりぼっちのたましいたち”というのはメンバーのことを表しているわけですよね。

アントン:この歌詞はドキュメンタリーだと思ってもらって間違いないです。でも今回は自分としては技術的なところも使えた歌詞内容だと思っています。しかも書き始めて3日目くらいの丁度煮詰まっている頃合いに、もう1曲の「僕と君のロックンロール」の只野菜摘さんが書いたすごく完成度の高いプロの歌詞が届いて。もう逃げようかなっていうくらいプレッシャーになりました(笑)。

―その結果、どちらの曲もTHE夏の魔物の結成第一弾シングルに相応しい良い曲になっているのではないでしょうか。

アントン:そう思って頂けたら嬉しいです。じつは「over the hill」というタイトルは、VAN DER GRAAF GENERATOR(ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーター…イギリスのプログレバンド)の曲のタイトルなんですよ。ちょっと年末に色々大変なことがあって。それをみんなで集まって話し合ったことがあったんですよ。もともとVAN DER GRAAF GENERATORの「over the hill」という曲は、“諦めないで挑戦することほど簡単なことはない”みたいなことを言うすごい歌詞なんですけど、ただこの曲は何かを乗り越えるっていうシンプルなことだけじゃない複雑な歌詞内容で。「over the hill」というのは、“ピークをすぎた”というネガティブな意味合いも含まれているんですけど、この曲のことを年末に思う機会があって、歌詞がすごく助けになったんです。それで年末のライヴMCでも触れていて、歌詞を書くタイミングでも自分の中に入ってきたんですよね。タイトルもそのまんまですし。もちろんそれだけではなくて歌詞内容はもっと違ったところからもインスパイアされています。

―これまでの夏の魔物の活動における心情からきている部分もあると思いますが。

アントン:そうですね。ただ、最後のみんなが登場する部分というのは、最初のデモの段階ではなかったんですけど、後から成田君が付け足したいということで付け足したんです。

―「僕と君のロックンロール」についてはどんな印象をお持ちですか?

アントン:あの曲は素晴らしいです。只野さんの歌詞については、1回聴いて入ってくる部分と、徐々に聴いて入ってくる部分があると思います。そのバランスはやっぱりすごいなと思います。だから何回も聴きたくなるんだと思います。

―この2曲がTHE 夏の魔物結成第一弾シングルとなるわけですが、これまでの夏の魔物でのアントンさんの存在って、「プロレスラーがいるグループ」っていうわかりやすいキャッチになってたと思いますし、実際に毎回プロレスをやっていましたけど、THE 夏の魔物になってからはその辺はどう変わっていくのでしょうか。

アントン:私自身は、ライブではもうプロレスをやることはなくてもいいと思っています。プロレスをやる以外のことで、バンドにいる上での役割は十分成り立っていると思うので。

―プロレスラーとしてではなくて、ロックバンドTHE 夏の魔物のバンドマン、という立ち位置でアントーニオ本多がバンドに存在しているんだということを示すのが、今回成田さんがアントンさんに「over the hill」の作詞を依頼した意味なのかなって。

アントン: THE 夏の魔物にこうして歌詞を書くという形で参加できたことは私の中で非常に大きいです。この作品は聴いてもらえるだけで自分というものを多くの人に知ってもらえる。もちろんプロレスっていうものもとてもすごく素晴らしいものですけど、試合をして人々に伝えるだけじゃなくて、歌に乗って人々に伝わって行くという、非常に貴重な機会を頂いたなと思っています。

―プロレスとかアイドルとかロックとか色々なものがごちゃ混ぜになって面白いなっていうのが出発点ではあるけれど、最初と違って今は“プロレスラーだからアントンさんがいる”のではなくなってきたんじゃないかと思うんですよ。活動を続ける中で1人の魔物のメンバーとしてここにいる、という風にアントンさんの中でも変わってきているんですか。

アントン:はい、そうですね。だから本当にこの曲に関しては魔物に参加してメンバーとコミュニケーションを取ってきた経験が直接的に表れているというか。例えば舞ちゃんがこの歌詞を歌ったらグッとくるだろうとか、チャン(泉茉里)がこの歌詞を歌ったらグッとくるだろうなとかいうこともありました。特に一番最後の舞ちゃんの部分に関しては、細心の注意を払って考えました。“愛”という言葉って、諸刃の剣だと思うんですよ。世間的にやっぱり、尻軽な愛の歌が溢れる傾向にあるので。“愛”って一口に言っても扱いがむずかしいと思うんですよ。でも、ここでは絶対にハマると思って書いたんです。歌詞を書く上で、嘘のないようにしようというのが自分の中にあって。嘘がない歌を書かないといけないという。“愛”というのは強い言葉ですけど、これは嘘じゃないって自分の中で確信して書きました。

―ところで、アントンさんはバンドや楽器の経験はあるんですか?

アントン:マンドリンをやっていました。YouTubeでグレイトフル・デッドの私の好きな曲をアメリカの主婦がウクレレで弾いて歌っている動画があって。それがすごくてウクレレを弾こうと思ったんですけど、ちょっとウクレレは簡単すぎるんじゃないかと思って、やっている人があまりいないマンドリンを買って独学で練習して、自主制作映画の中でも弾いているんです。その映画のタイトルも「OVER THE HILL」なんですよ。DVDにして売っていたんですけど。

―シン・マモノBANDによるバンドスタイルでのライヴについてはどう感じていますか?

アントン:成田君が生のバンドでやりたいという気持ちはすごくわかるし、オケとバンドの両方ができるので、魔物を呼んでくれる人もやりやすいんじゃないかと思います。

―THE 夏の魔物自体の雰囲気ってアントンさんから見てどうですか。

アントン:雰囲気はずっと良いんですけど、みずほちゃんみたいな子が入ったことで、より良い雰囲気です。みずほちゃんはみんなのリラクゼーションになる、妖精チックなところがありますね。すごくみんなと打ち解けてますよ。るびいちゃんが入ってからのバイブスもとってもいいですね。もともと魔物が好きで入ってきているから、みんなに対してのリスペクトが半端ないんですよね。あとは人間が面白いですね、彼女は(笑)。なんかこう、瞬発力の高いコミュニケーションをする人です。ナイーヴなところがあるのにすごく元気っていう、矛盾する要素がよくわからない感じで同居しているというか。

―彼女はもともと魔物チルドレンだったわけですから、そういう人から好かれるバンドだということですよね。

アントン:ああそうか、そういうことですね(笑)。るびいちゃんの良いところはたくさんあって、何を食べても心の底から“美味しい!”って言うことが多いんですよ。安っぽいロケ弁を食べても“ああ、これ美味しい~、このちくわ美味しい~”みたいなことを本当に心のこもった感じでしみじみと言うんですよ。本当にいい子だなって思います。

―ex.ケンドー・チャンこと泉茉里ちゃんはいかがですか。

アントン:この子も本当に面白いことばっかり言うんですよね。お腹が空いたときと眠いときと車に酔ったときくらいですよ、元気がないのは。あとの時間は本当にピカピカしてます。気も遣えるし、でも自分も存分にはっちゃける感じですね。

―卒業する塚本舞ちゃんとはかれこれ2年以上活動を共にしてきました。

アントン:彼女は、可愛らしいですね。るびいちゃんとかがはっちゃけたときに「こらこら、駄目だよ」みたいに、注意してあげたりするところもあるんですけど、そう言いながら、自ら自然に面白いことを言ってはっちゃけているときがあって。そういうときは本当に可愛らしいですね。ほんのりとした下ネタを言ったり(笑)。女子の中でのほんのりとした下ネタというか。楽屋にバナナを買ってきて女子で騒いでたりとか(笑)。そういうときは、本当に良いバイブスが出てるなって思います。

―そのときアントンさんはどうしてるんですか。

アントン:壁越しに聴いてる感じですね。ファンの方々にはできない素晴らしい体験を我々はしています(笑)。

―最近のライヴを観ていても、以前にも増してアントンさん、成田さん、大内さんの結束力を感じますが、アントンさんからすると3人の関係は以前と変わらないですか。

アントン:単純に、ずっと一緒にいることで、よりその人のことがわかるというか。特にお互いの意思を確認したとかっていう甘酸っぱいシーンはこれまでないんですけど。まあなんといっても、成田君も大内さんも、私のことが大好きですから。ははははは!

―本当にそうですよね。

アントン:その期待に応えたいんですよね。もちろん私も2人のことが大好きですから。

―別の取材で大内さんがアントンさんとのコンビを「鉄砲玉」と称してましたけど。

アントン:レコーディングのときはそうですね。息は意外なほど合ってますし、レコーディング中のテンションは2人がスウィングしてます。だって、「どきめきライブ・ラリ」の掛け合いなんて、大内さんとじゃなきゃ絶対できないですから。あの“泣いていいかい”っていうのは、レコーディングで一発で録りましたから。ビックリしました。「こう言うからこう言ってください」って話して、一発でできるんですよ。尺とかもピッタリ合っちゃって。

―すごいですね。それは一緒にやってきた時間で培われたものなんでしょうか。

アントン:いや、これは本当に“神が与えたもうた相性”でしょうね。ライヴでも、何を言っても大内さんは素敵な答えを返してくれますから。そこはやっぱりすごいなと。

― THE 夏の魔物の中で、一番長く付き合いのある関係でいうと成田さんとアントンさんになるわけですよね。

アントン:ええ、そうですね。

―アントンさんは成田大致のよき理解者だと思うのですが、今の成田さんはアントンさんから見てどうですか?

アントン:楽しそうですよ、以前にも増して。やっぱり、成田君も面白い人間ですね。あの人はたぶん、自分がリスペクトしている人との関係っていうのはすごく花開くタイプだと思うんですよ。人とリスペクトを含む関係性を創るという意味では、天賦の才があると思います。彼はリスペクトをしている人の本質を見抜いているんだと思うんですよ。だから、例えばROLLYさんも彼といると、どんどんどんどん本気を出してしまう。私もそうなんです。そのリスペクトが伝わってきちゃうんですよね。彼が持っている一番大きなチカラはもしかしたらそこかもしれないですね。その人間関係を築けるチカラが、彼の作品を生む大きなチカラになっている気がするんですよ。

―なるほど。

アントン:例えば、作詞家の只野さんは本当に色んな人から受注を受けているんですけど、成田君の場合は伝え方とか、作るプロセスが他の人たちより密接なものになっている気がするんですよ。作ってもらう人と、よくコミュニケーションを取っていると思います。それは頻度もそうだし、濃度という意味でもそうだし。

―しかも成田さんは、リスペクトしている相手が作ったものに対しても「自分はこうしたい」ということをハッキリ伝えますよね。

アントン:作ってもらって「ありがとうございます、やったー」じゃないんですよね。ちゃんと自分のビジョンが明確にあって、相手のチカラを借りてあくまでも実現しようとするんですよ。それはどんなにリスペクトしている相手に対してもそうですね。相手もプロフェッショナルだから、それに応えるんでしょうね。どうしてそうなるかというと、ちゃんと相手に本気のリスペクトが伝わってるからなんですよ。

―今回、アントンさんが「over the hill」を作詞したこともそういうことなんですね。

アントン:まさにそうですね。だから、このタイミングで歌詞を書いてほしいと頼まれたのは信頼されている証なんだと思うんですよね。

―「MAMONO RECORDS」を立ち上げてどんどん作品を出していくと言っていますが、アントンさん自身がやってみたいことってありますか?

アントン:自分から能動的になにかを、ということはないですね。任されたものを120%のチカラで打ち返すだけです。

―最後に改めて訊きますが、アントンさんがずっと魔物のメンバーであり続ける理由ってなんですか?

アントン:人前に出て何かをやるということは、プロレスと似たところがあるんですけど、魔物に関しては、みんなと一緒にいるのが本当に面白いんですよね。だってこのバンドがなければ、ハタチの女の子とかと一緒に何かをするなんてないですからね(笑)。THE 夏の魔物がなければ、知らなかった世界がいっぱいありますし、私の人生に彩りを与えてくれているから、THE 夏の魔物にいるんです。

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